悦凱陣 赤磐雄町 山廃純米酒
悦凱陣(よろこびがいじん)、赤磐雄町山廃純米酒。
このお酒は、去年の秋に知人から工房オープンのお祝いに頂いたものです。そして、無濾過の生(濾過と火入れをしていない、色々と酵素や菌が活きている)にもかかわらず、ずーっと常温で放置しています。暖かくなってきた今でも。そして味わいは、心溶ける魅力が詰まってます。これぞ、「魔力」が宿るお酒なのでしょう。
生原酒なのに冷蔵庫に入れない、、、、それは確かに、「大きな変化を食い止められない」です。お酒は搾ってから、刻々と味は変化します。よくあるのは、早めにオリを取り除いて、ここぞというところで熱処理をする。そして冷蔵庫で囲う。ここ10年くらいで圧倒的に増えた方法でしょうか。それでも変化していくのですが、スピードはとても遅くなります。良い状態で飲んで欲しいのか、変わることが怖いのか。流通のストレスに耐えるという観点の、一つの方法論。
それとは別の世界観が、このお酒にはあるのです。(どんな無濾過生のお酒も常温放置して大丈夫というわけではなく、下手をすると「火落ち」する可能性がありますので、ご注意ください)
この悦凱陣の生。造りは尖った部分がきっとある。原料処理は、どこかでかなり力技を使っているのではないかと思われる、切れ味の良さがある。米は溶けてはいるはず、でも、この切れ味は、ただ米をどんどん溶かし、旺盛に発酵させ、日本酒度を切らしただけでは出ない類の、鮮やかな切れ味なのです。意地、のようなものをそこに感じる。蔵人はしんどい思いをしてそうだ。
火入れしてマイナスの冷蔵庫で囲っていたら、このお酒は本領を発揮したかはわからない。でも常温で放置して変化したこのお酒が本領というのも不遜であると思う。それでも。常温で置いておいた結果、決して不快な香りがしない。よく生酒は「生ヒネ」という香りのことを言われるし、専門的にはこのお酒にもあるのだけれど、決して飲みたくならない香りになっているわけではなく、「おお、なんだこれは、早く喉を通したい」と思わせる摩訶不思議な香りになっている。「ドロドロした」綺麗事ではない力があるのだ。今夜、君と溺れたい、というような。
飲むと、説明し難い旨味。静かだけど、強烈。流れるようだけど引っかかる。なんなんだ。
数値的には酸度と比べたら、アミノ酸は少ない。でも、いい苦味がある。それが、もういっぱい、もういっぱい、うむ、まだまだ、、、と進ませる。
今日は妻が作ったすこぶるうまい水キムチと合わせてみた。数日前は鶏胸肉をヨーグルトに漬け込んでピンク色に焼き上げたものと。どちらにもいけるんだが、この静かで強烈な旨味はもっとドンピシャな組み合わせがあるはずだ。もっと探求したい。まだまだ飲み足りない。
そうしているうちに、空いてしまう。この蔵の酒に、惚れてしまう人が沢山いるのも、よくわかる。